6/19|第3回出版研究会 レポート

6月19日(金)、我楽田工房にて第3回出版研究会を開催しました。今回のゲストは、埼玉県朝霞市で創業79年の書店・株式会社一進堂を率いる三代目代表取締役、山﨑幸治さん。「コスパの悪いことをやり続けてきた」と笑いながら語る山﨑さんのことばには、本屋の未来への確かな意志と、地域への深い愛情が詰まっていました。

出版研究会は、書店・取次・出版社のそれぞれが縦割りで頑張っている出版業界に「横串を刺して、業界イノベーションを面白く仕掛けていく」ことを目指した勉強会。フローラル出版代表の津島栄さんが主催し、毎月我楽田工房で開かれています。

消えゆくまちの本屋さんの現状を説明する山﨑幸治さん
「20年で書店数は半分になった」——業界の現状を率直に語る山﨑幸治さん。その語り口は終始穏やかで、それがかえって言葉の重さを増した

本屋を「辞めろ」と言われ続けて

一進堂は山﨑さんの祖父が創業し、最盛期には駅周辺に複数店舗を展開。しかしバブル崩壊後、書店業態の縮小とともに店舗を絞り、2022年に駅中テナントを退去して地域密着型の拠点「チエノワBASE」へと転換しました。

その背景には、苦い経験がありました。駅の鉄道会社テナントでは「書店は書店の仕事だけ」というルールが厳しく、地域と組んだ自由な企画が一切できなかった。金融機関も顧問税理士も「本屋さんを辞めれば楽になりますよ」と言い続けた。「悪気はないんですけどね」と山﨑さんは苦笑いしながら、「でも、プライドが傷ついた」と静かに言いました。

それでも辞めなかったのは、山﨑さん自身が「本に育てられた」と感じているから。「本があるから人生の中でちょっとしたことに変えられる。そういう経験が、本屋はなくしちゃいけないという思いになった」——その確信が、駅の外に新しい本屋を作る決断につながりました。

新しい書店ビジネスモデルを語る山﨑幸治さん
ワークスペース、アートギャラリー、B2B研修、焼き鳥屋台——「本屋を残すために始めたことが、本屋の新しい形になってきた」

「待つ商売」から「攻める商売」へ——チエノワBASEの実験

2023年にオープンした「チエノワBASE」は、物販エリアを従来の半分に絞り、2階をワークスペースとアートギャラリーに転換。本と雑貨の売上依存度を3割に設定してスタートしました。

ワークスペースは今や地域の団体や習い事の予約でほぼ埋まり、仕入れゼロで安定収益を生んでいます。アートギャラリーはインスタフォロワー10〜20万人のクリエイターと共催するモデルを開発し、「この間は1ヶ月で150万円分売れた事例もある」とのこと。焼き鳥屋台の月次売上が本の利益を超えた月もあるといいます。

さらに注目されたのが「ブックトゥーアクション」という企業向けB2Bサービス。1冊の本を分担して読み、対話で気づきをシェアする読書会型研修で、上場企業にも導入実績があります。「本を並べて待つのではなく、本を持って企業に出向く。攻めのビジネスに書店を変えていきたい」——リコーで培った法人営業の免疫が、ここに活きていました。北海道の書店との協業もスタートしており、全国展開を見据えた動きも始まっています。

著書「コスパ悪いほうが人生は上手くいく」にサインをする山﨑幸治さん
講演後は著書『コスパ悪いほうが人生は上手くいく』へのサイン会。「名刺代わりに本を渡す」という山﨑さんの思いが込められた一冊

本屋がまちをつくる

朝霞ストリートテラスは今年で6回目、10万人動員の街のお祭りになりました。地域の飲食店20店舗が参加するワンフォーサカ(本1冊につき1円を地域に寄付)の仕組みも動いています。子ども大学あさかの実行委員長として15年間続けてきた教育活動も、商売とは「別々」と思っていたことが、じつは本屋の存在意義そのものだったと気づいた——。

「本屋があるから、それ以外の全てがある」。焼き鳥の利益が本の利益を超えた月でも、山﨑さんはそう言い切ります。地域出版社としての機能も始動し、著書はアマゾン新着9部門で1位を獲得。「コスパ悪い」ことをひたすらやり続けてきた79年の積み上げが、いま新しい本屋の形として結晶しつつあります。

次回・第4回出版研究会は7月19日(日)16:30〜、我楽田工房にて。ゲストは、「超かぐや姫」のIPをはじめ出版の物流・流通の未来を創る株式会社ニューブックの豊川竜也さんです。

当日の様子