医者に行く前に、食べ物を見直せ【インターンシップ生】
こんにちは、インターン生の、湯浅真優子です。今日お届けする第2回目のインタビューは、今野徹さんです!
今野さんは、大学で畜産を学ばれた後、農林水産省を経て、現在は、清澄白河で日本初の北海道ナチュラルチーズ店・「チーズのこえ」を営まれています。
TPPで度々耳にする「食の安全」。何かと話題の「食」問題ですが、様々な「食」に関する経験をされてきた今野さんに、今後「食」とどのように関わっていけば良いかをお聞きしました。
それではご覧ください!
きっかけ
今野:公務員をしているとどうしても保守的になってしまうんだけれども、僕がはじめ公務員になったのは、いろんな情報がたくさん入ってきていろんな人と出会えるからなんです。点と点をつなぎ合わせて自分が知っている人同士をつなぎ合わせたら、もっともっと面白くなるんだよね。
でも、公務員だと守秘義務があったりして少し動きにくい。だから今は、いろんな人といい意味で公私混同して、人と人をどうつなぐかにシフトチェンジして活動をしています。
湯浅:主に活動されているのは、農業に関することですか?
今野さん(以下敬称略):農業と食に関しての活動が多いです。
現在、日本の農業は約40%を自給していますが、後の60%は外国からの輸入に頼っています。
貿易の相手国との間にはWTOやTPPなど、国際ルールが関係し、農業だけでなく、鉱山資源や自動車の輸出など、それらは経済と密接に関連しています。
食や輸出の関係も単にお金のある人が食の債権に触れるというのではなく、お金がない人も、貧困の子どもも、きちんとした食育がされるべきです。
たとえばアメリカ合衆国では、自由主義、競争主義の中で、1%の勝ち組は経済全体の40%を占め、99%の人々は経済全体の58%で暮らし、残りの2%はスナック菓子やハンバーガーで暮らしています。それは食育とは言えません。
食の豊かさを考えたとき、途上国から安く買い集めてきて、それでハッピーというのもおかしいじゃないですか。
それで、食の関係も携わっていたら、様々な途上国や東南アジアなど、そういった国の貧困や飢餓という問題にも触れていかなければならないため、農業と食に関してのほかにも、活動は自然と広がりますね。
湯浅:農業を起点としても、それを取り巻く環境など、考えなければならないことはたくさんあるのですね。
今野:僕は当事者として活動していますが、みんな関係しているんだよ、ということを心にとめてほしいです。
何も考えずに買い物をするということは、極端に言うと、誰かを餓死させることにつながるかもしれないっていうことが農水省にいた頃に情報として入ってきて、他人事ではないなと思って。
FOOD VOICEについて
湯浅:現在は、FOOD VOICEという会社を経営されているんですよね?
今野:もともとはFOOD VOICEという取り組みで、あまり会社とは関係ないのですが、以前やったチョコレートのイベントの名前が良かったので、そこからとりました。
実は、これからチーズ屋をやっていくんです。チーズ工房の人たちと関係も長らくあったので、なかなか小さくて東京に営業できない工房をまとめて、東京にチーズ屋を開くことにしました。
でも、ただチーズを売るのではなく、チーズの背景にある作り手の人とか、大地からの頂き物ということを伝えることを目標にしています。賞をとったから海外のチーズを買うのではなく、北海道のチーズを買うということは、北海道の大地をサポートするメンバーにみんななるんですよ。そういうことを一つのチーズというツールを使ってその背景にあるものを、伝えたいです。
買い物を変えていくことで、その背景にあるものを含めてそこを支持しますよといっている言葉として、毎日毎日の買い物というのは、生産者や地域や流通のスーパーマーケットに投票することで、支持していることの意思表示になると思うのです。
もともとは、物言わぬ食べ物の代弁者として、食べ物の声を届けることを目指してFOOD VOICEを立ち上げて、難しいことを考える前に美味しいものが目の前にあってそれにつられて寄ってきた時にこれ実はこういう背景があるんだよってことを伝えられればいいなと思っています。
日本の農業は大丈夫?
湯浅:現在の日本の農業は、海外の安い食べ物に圧倒されているイメージがありますが、今野さんはこのことをどう思いますか?
今野:日本は原材料が高い分値段も高くなってしまうし、一方の途上国は原材料が安い分値段も安いというのはしょうがないことです。そういったことも踏まえた上で、何にお金を出しているかという意識を持つことで少しお金があるときは産地を応援するんだという気持ちが大切だと思います。そういう気持ちを育むことで、値段のハンデは埋められるのではないかと思います。
湯浅:産地をファンにすることは大事ですか?
今野:知ると応援したくなるし、産地をファンにする売り方はとても重要だと思います。また、それはイコール顔が見えることだと思っています。
しかし、1対1ではなかなか難しいですよね。そこで、スーパーや農協が紹介する形で、「あ、この土地行ったことがあるから、50円高いけど買ってみよう」と見せること、これが、顔が見える=体温が伝わる商品の売り方だと思います。
そう考えると、消費者という言葉もなんだか違う気がします。お金があるから、商品に対してクレーム言いたい放題というのではなくて、「ともに生産する」=「共生産者」だという意識が重要です。その商品を買うことは、「その土地に参画している」ということです。レストランを選ぶ際にも、例えば、異物混入などでハンバーガー屋が問題になったから、じゃあ、別のハンバーガー屋に行こう、というのではなく、安心して食べられるレストランであることがわかった上で、そこを選ぶことが望ましいですね。
湯浅:東京に住む大多数がそうした意見を考えられるようになったら、日本の農業はどんどん活発化しますよね。
今野:そうですね。しかし、東京の難しいところは、消費する町としては日本でダントツの第1位でありながら、八王子や青梅を除いて、食料自給率がわずか1%であることです。モノを作っていない、単なる消費する町となっているのです。その中で、雑誌やTVなどの情報だけが蔓延しており、情報に流されてしまっている。例えば、パンケーキやポップコーン、スムージーなど、みんな苦もなく並びますよね。
湯浅:あああ……パンケーキもポップコーンも全部名前が出てきます…..(笑)
今野:そのもの自体が悪いのではないのですが、誰かがなにかをいいと言ったら、大勢がそちらに流されてしまうということが問題だなと思うのです。地に足をつけた食との向き合い方が大切だと思います。そうすれば、ただ情報に操作されるままに消費行動を起こすことは減る気がします。
食は将来の子どもへの投資
湯浅:そう考えると、「食育」というのが今後のテーマになってくる気がします。
前回、子ども食堂「だんだん」さんに取材させていただいた時に、今の小学生は親が朝食を作れなかったり、子どもを学校へ送れなかったりして、ご飯を食べられないと知ったのですが、子どもは仮に親からお金をもらっていても、自分で栄養バランスを考えた食事を買うことができないそうです。
本当、学校の教科に1教科「食」という授業が加わってもいいくらいですよね。
今野:子どもへの食育ももちろん大切なのですが、彼らを取り巻く環境、特に、親の意識を変える必要があります。
例えば、米を植えるとか大豆から味噌をつくるとか、豚を飼ってソーセージをつくるとかいう食育の体験を、私は実際にしていたことがあって、親子参加なのですが、どちらかというと夢中になって学んでいるのは親の方なんです。
今は、値段が安ければそれでいいやと思うかもしれませんが、食への投資は将来の子どもへの投資として受け取って欲しいです。
湯浅:親から変わる、それが子どもに受け継がれるということですね。彼らに働きかけていくことが大切なのですね。
今野:時間がない人もいますから、人それぞれ出来ることからでいいと思っています。
でも、例えば、安い牛肉を使った料理は、この牛肉ができる過程で児童労働や低賃金で働かされている人がいるのではないかと想像することは誰にでもできます。どこかわからない国から食べ物を買うよりは、日本のものを買うことによって回り回ってお金は自分たちにかえってくるのかなと考えてくれればいいなと思っています。
湯浅:今野さんはどうしてこのような活動をするようになったのですか。
今野:病気になってから治療するのではなく、病気にならない生活を、食べ物でどうにかできないかと考えたからです。医者が50万人を相手にする一方、食は1億2000万人を相手にします。食を考えることはもはや、世の中を治すことと同義だと思っています。そして、食を変えることで、病気になるひとが減ると、社会保険の負担が減り、回り回って国家財政も変わるかもしれません。風が吹いたら桶屋が儲かる、一見つながりが見えなさそうで実は、食は様々なことと関連しているのです。
湯浅:このような発想はどこから出てきたのですか。
今野:私はもともと三代医者の家系で、両親がせわしなく働いてきたのを見ていたからだと思います。
自分も医者をリスペクトしていて医者になろうと思っていたのですが、それよりももっと、親の仕事を楽にしたいという気持ちが大きくなりました。そこで、病気にならないようにどうすればいいかを考えるうちに、食にたどり着き、農業を学ぼうという答えに行き着きました。
湯浅:先ほども言いましたが、現代人は目まぐるしくすぎる日常の中生活している人が多い気がします。
しかし、現在、少し大きめの家庭菜園を持つ人が増えていますよね。大規模な家庭菜園を今野さんはどのように捉えますか?
今野:家庭菜園で食の価値に気づくこともあるし、身近な場所に農業を感じられるいい機会になると思います。
湯浅:食育を広げる上で、大規模な家庭菜園は重要な教科書になりそうですね。
今野:そうですね。半農半Xというのは、50:50である必要はなくて、1:99でもOKです。それは、家庭菜園を千葉に持つのもいいし、ベランダにトマトを植えて、毎日気にかけてみる。少しでも農業に関わることで、自分の食生活の足しにするようにするということで当事者意識をもつことが大切ですね。
漁から狩りまで経験して
今野:北海道にいたので、シャチやエゾジカが見れたり、岩場にゼニガタアザラシがいたりしました。それでスキューバダイビングに興味をもって海に潜ったら、海洋生物と自分たちの生活のかかわりを考えさせられて。
湯浅:すべて学びなのですね。
今野:そうですね。楽しいね楽しいねって活動してたら、近くにいたホタテ貝の養殖をしている人が、来週の2時ここに集合ねーって突然言うんです。それで、実際行ったら船に乗せてくれて、ホタテ漁に連れて行ってくれたり。でも、海域があってここしかとってはいけないときちんと管理された上で漁をしているんです。ルールを守っているからこそ、資源がきちんと守られているんだなと思いました。
湯浅:そんな体験なかなかできないですよね。私は東京生まれ東京育ちなので、そんな自然に触れ合える機会はほとんどないです。先日、千葉の勝浦に行ってきて、山の間をずっと車で走っていたのですが、山肌が全部ブロッコリーに見えました笑
今野:でも、きれいごとではなくて、エゾジカにしても、農作物を食い荒らしてしまうから、それを撃って殺して管理しないといけないんです。農業被害だけで、60億くらいあるんですよ。
でも、じゃあなんでこんなことになっているのかというと、銃の管理が厳しすぎて若い人がエゾジカをハントしなくなったからなんです。面倒だから。そうして山に入る人が少なくなると、エゾジカは増えて、農作物に被害を及ぼす。
それで今度は300kmにわたって2メートルの高さの柵を張り巡らすのですが、その修繕費もバカになりません。客観的に見たら、エゾジカは、動物園に展示された人間を見ているかのような気持ちなんじゃないかなと思います。それってなんだか歪な関係ですよね。
エゾジカもただ可愛いというのではなく、きちんと撃って、締めて、美味しく食べられるよう流通させることでエゾジカを撃つ人が増えていけばいいなと思います。
湯浅:今野さんは、エゾジカの屠畜現場にも参加されたことはあるんですか?
今野:ありますよ。ワイヤーで引っ張ってきて、トラックの荷台に吊るして解体しました。
湯浅:命の重みを感じますね。「頂きます」という思いが強くなりますね。
今野:畜産というのは、きれいごとではないから、いかに食べ物としていただくかというのは、私のように畜産を学んできた人間にとって伝えていかなければならない課題だと思います。
チーズは生物を殺めなくてもいただける生命からの贈り物
湯浅:私は飲食店で働いています。職場で毎日大量のごみが捨てられていくのを目の当たりにすると、食のありがたみってなんだろうと思ってしまいます。
でも、それと同時に企業として利益を出すために仕方ない部分もあるのかなと思う時もあります。そうなると、食に関するビジネスというのは、今野さんの目指す食のあり方とベクトルが異なる気がするのですが、今野さんは食を使ったビジネスに関してどう感じますか?
今野:例えば、ドギーバッグを持って持ち帰る運動を起こしたりだとか、残った残飯は堆肥化して畑に持って行って、その畑で採れた野菜を使ったりすることがいいと思います。企業としての利益だけでなく、社会としての約束ごととして環境に負荷を与えないというのは大前提です。私はそういう企業に生き残って欲しいし、そとためにそこの企業を応援するという意思で、商品を買おうと思っています。
湯浅:大学の授業で、米国の畜産現場のドキュメンタリー番組を観た時、動物を工業製品のようにみなして、骨の成長が追いつかないままに身体だけ大きくする育て方にゾッとしたのを覚えています。しかし、それが安さの秘密ですよね。
今野:大多数の人は、真っ当なものを買いたいと思いながら、一方で安さを求めている。
常に真っ当なものを買える人はいいですが、お金がなくて買えない人もいます。ですが、できるだけ情報開示して、割り切ってでも買いたいと思えるところを増やしていきたいです。
湯浅:今野さんはどのように応援したい企業を見つけ、何を一番の判断材料にしていますか?
今野:人の注目度だけで買ってみようとか言うのではなくて、私は全国各地のつながりがあるので、そういったつながりの中から美味しいものを作っている人を見つけて頻繁に利用させていただいています。
湯浅:全国各地のつながりはどのように作っているのですか?
今野:例えば、北海道や東京にいると、お茶って採れないでしょう?そうすると、お茶のことについて知りたくなるよね?
湯浅:は、はい…笑
今野:お茶の収穫の仕方も知らないし、一番茶・二番茶についても知らないし、緑茶・抹茶になる過程はどうやっているんだろうとか、農協がどう関わっているのかなとか。そういうことを知りたいなと思っていると、誰かが紹介してくれて会えたりするんです。
でもそこで、お茶の話だけでなく、経済の話になったり、以前和歌山に梅を学びに行った時も、そこで後継者の話になったりとかもして学ぶことが多いんです。ネットで分からないことはとにかく自分の目で見て確認して、それの積み重ねだと思います。
湯浅:今野さん、好奇心旺盛ですね。
今野:セレンディピティという言葉があって、北大のノーベル賞をとった鈴木さんが話していたことなんだけど、目的に直線的に向かっていくのではなくて、よそ見をした中でワクワクの発見はたくさんある。
子どもの時はそれはただの純真さかもしれないけど、大人になってからそれができるのは能力だと言っています。私もセレンディピティを持った生活を心がけています。
湯浅:心の余裕をもってよそ見をしながら食を感じていけるといいですね。
今野:地下鉄でふと顔を上げたら桜が咲いていた、そういう余裕を多くの人が思えるようにしてほしいです。
湯浅:一口に食といっても、様々なことが関わりあっていて、その一部を解決しても問題がいびつになってしまいます。
世の中は全て繋がっていると認識して、自分のできることから食に参加してみることが大切なのですね!今野さんお話ありがとうございました!